お侍様 小劇場
 extra 〜寵猫抄より

    “くいすますは じんごろべえ?”


急な寒さに きゃわきゃわと慌てる、
うら若き女子こそいないお宅だが。
枯れ葉がかさこそと勢いよく舞うのが、
窓越しにもいかにも寒そうに見えるのか、
仔猫さんたちが少々お顔を曇らせ、
縁側代わりのリビングの窓辺で、
その身をきゅきゅうと縮めていたのが印象的で。
打って変わって、
それが収まってのいいお日和となったらば。
さあ今のうちに毛布を干さなきゃと腕まくりをし、
気合いを入れての元気よくお庭へ出てゆくおっ母様に、
されど鼻先で窓を閉められてしまい。

 みゃあにゃあ、どうして?
 キュウもクロたんも遊びたいのにぃ…という

いかにも哀願込めたる鳴き声が、
カリカリリと窓を引っ掻く音と共にかすかに響くのへ、

 “あああ、心臓に悪いったら…。”

後ろ姿でもそれと判りやすい、
七郎次さんの撫で肩が。
寒さに震え上がったせいだけじゃあなくの、
ますますのこと しおしおと萎れていたりもし。
言うまでもなく、
いくら陽は明るくとも風は冷たいものだから、
小さなお子たちが震え上がらぬようにと、
後追いするのが判っていながらも、
手際よくサッシを閉じたのであり。
だっていうのに、何でどうしてはないでげしょうよと、
シーツを広げる手からも勢いが削がれがち。
そんな様相を見て取ったか、

 「ほれ、お前たち。」

そのようにしてシチを困らせるでないと。
少し寝坊した勘兵衛が窓辺までやって来て、
ど〜らと小さな和子らを抱え、コタツへ移動してくれるのが、
こんな日ほど嬉しい気遣いに思えてならず。
てきぱき片付けてから手掛けられた朝ご飯の温め直し、
旦那様の膳には、
シシャモが最初の分より増えていたりする可愛らしさよvv


  ……というよな脱線を経てからの、さて。


食休みをとってののち、
寒くはあれ、陽あたりはなかなかのそれで、
ラグやクッションを明るく温めちゃあいるお日和の中で、
リビングの一角へとでんと据えられたのが、
一丁前に鉢つきの、結構な枝振りをしたモミの木が1つ。

 「今年は遅くなりましたね。」

久蔵には待ち遠しかったでしょうにと。
少し角がこすれて白くなりかかったボール紙の箱を幾つか、
蔵からは出してあったらしいお支度として、
廊下の納戸から出して来たのが七郎次なら。

 「まま、あちこちの輸送事情が重なってのことだしの。」

実は今朝方 届いたばかりらしい、
こちらの新調されたモミの木を待っていてのこと、
手筈がこうまで遅れたのもまた しようがないさねと。
ざっくり編まれたノルウェイ調のセーターを、
雄々しい上背ながら無駄なく絞り込まれた身へ
しっくりと着こなしている勘兵衛が。
てんでに好き勝手 駆け回っていたところから、
何だ何だと駆け寄って来た仔猫たちへ、
さあお楽しみが始まるぞと言わんばかりに笑いかけ。

 「なぁう?」
 「みゃうvv」

やはり鉢の傍へと膝立ちになった七郎次や、
ボール箱を開く勘兵衛の、
どれどれと働き始めるお膝や手元へ、
小さなお手々をちょちょいと乗っけたり、
濡れたお鼻を擦りつけたり。
関心あります、何だ どしたと、
いそいそ擦り寄って来るおちびさんたちの目の前で。
キラキラした真ん丸のグラスボールや、
ふさふさした毛並みも豊かな金と銀のモール。
金の刺繍が入った真っ赤なおリボンに、
雪を表したか砂糖菓子みたいに白い粉がかけられたお星様やら、
赤と白をねじった、
少し前に見た千歳飴みたいな配色のステッキなどなどが、
モミの木の深緑色の梢へと次々に吊るされてゆく。
彫金細工の雪の結晶は後から足したオーナメントで、
小さな豆電球が連なった、細いケーブルの近くで揺れており。

 「今年はこんなのも買ったんですよ?」

そうと言った七郎次が出した箱には、
やはり細いケーブルで連ねられた格好の、
細長い棒が幾つも入っていて。
そちらはツリーには吊るさないらしく、

 「洗濯物を取り込んでから、お庭に吊るしますね。」

何でも上から下へ、光の雨が降るような点滅をするのだそうで、
今年の新作ですよと、雑貨屋さんで勧められたとか。
作り物のジンジャークッキーに、真っ赤な銀紙を張ったとんがり帽子。
雪をかぶったミニチュアの教会や、白い羽根の天使。
紙細工の長靴はサンタブーツか片っぽだけで。

 「みゃ〜〜〜。」

おやまあ、もしかしてクロちゃんは初めて見るのかな?と、
そちらさんもまたお人形に見えるほど、
可愛らしくも小さなお手々を揃えてのお座りをしたまま、
小さな小さな彼には頭上に揺れる高さとなる緑色のグラスボールを、
金色の鈴のようなお眸々で見上げておいで。

 『西洋のしきたりが珍しいというのではなかったが。』

後日に、ご本人がこぼした弁によれば、
仔猫の姿に身をやつしているとはいえ、
家の中へお入りと受け入れられたのはこたびがお初のこと。
大きな存在である本身では到底どこにも隠れようがなくの、
一家の団欒の一角に飾られた“つりぃ”なんぞ、
ああまで間近に眺める機会もなくて。

 『そうさな。
  奉ってくれる社は社で、降誕祭とは無縁な場所だし。』

戸外にも飾られていたとしたって、
神社仏閣といった地にあった祠(ほこら)や寄り代からは遠く、
そうそう覗きにも出向けずで。
それでのこと、
家庭サイズの可愛らしい、
その分、暖かい想いが凝縮された“つりぃ”を、
初めて間近に見たクロちゃんに。
小さな身を寄り添わせるようにして、

 「にゃにゃ、にゃうみゃvv」

小さなお手々を持ち上げると、
あちこち指さしていた久蔵坊やだったのは、

 「…あれってもしかして、
  久蔵なりに説明してやっているのでしょうか。」
 「かも知れぬな。」

綿毛のような金の髪をいただき、
ふくふくとした柔らかそうな頬にほんのりと緋色を散らした、
まさに天使のような風貌のおちびさんが。
そちらも小さくて可憐な黒猫さんを
いい子いい子しつつ寄り添っている図だなんて……。////////

 「〜〜〜〜〜〜。///////」
 「七郎次、判ったからセーターを引っ張るのは。」

こちらさんは絹糸のような金の髪も清楚に映える、
せっかくの端正なお顔を隠すよに。
口許に白いこぶしを当てたままの伴侶殿から、
辛抱たまらん反動か、二の腕辺りをぎゅうぎゅうと引かれ。
まだ ぱふぱふと叩かれる方がマシなのだがとの苦笑を浮かべつつ、
それでも…遠慮のないくっつき方自体には
まんざらでもないと男臭いお顔の、
その頬をついつい緩める勘兵衛でもあり。


  甘くて幸せな空気が、
  早くもほわんと立ちのぼっておいでのお宅なようで。
  陽が落ちてからのイルミネーションへの反応も楽しみですね。
  そして明日はいよいよのイブですし、
  七郎次おっ母様が腕によりかけて、
  御馳走を作るのがまた楽しみなのだろ、
  そんな島田さんチだったそうでございます。




   〜Fine〜  2011.12.23.


  *チョー有名なクリスマスソングを
   ちょっとふざけて表記する言い回しに、
   “じんごのべぇ、じんごのべぇ♪”
   …なんてのがあるそうですが。
   関西人なら何と言ってもこれに尽きますね。
   “さ〜いでんなぁ〜、ほぉ〜でんなぁ〜♪”ってのvv
(笑)

  *お茶目はともかく、(こら)
   クリスマス寒波はもはや定番になりつつありますね。
   こちらではまだ少しほど冷え込んだだけですが、
   豪雪に見舞われたところも多いとか。
   どちらさまもどうかご自愛くださいますように。


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